1 義務を尽くせ (『法律学楽想』p20〜22)

高校時代のそれなりの努力の成果として、君の現在の法学部の合格があったはずである。君が入学手続きを取ったことで涙をのんだ入学希望者が入学者の何倍かはあったはずだろう。ということは、一方では君は大学で法律学を学び得る特権を得たことでもある。その法律学を学びを得る特権を放棄することは勿体無いことである。
また、家族が、父が、母が授業料をそして生活費の全部または一部を負担してくれていることだろう。父は、一杯呑んで上司の批判でもして仕事のウサを晴らしたいところを同僚の誘いを断ってケチといわれて肩身の狭い思いをしながら、君に仕送りをしているかもしれない。母は、このスカーフはこのスーツにピッタリだと思いながらも諦めて、共々に生活の質を切り下げて、君の仕送りにあてているかもしれない。弟妹も小遣いを削られて切ないかもしれない。それどころか家族によっては寒さ暑さに堪えざるを得ない、そして更には食費さえも削るもっと厳しい状況もあるはずである。とすれば、家族は君が法律の勉強をすることを大いに期待しているはずだ。
社会だって、良い若い衆を労働力として活用せずに遊ばせておくのは、卒業して生産に従事するようになったときに素晴らしく高い生産力を身につけて出てきてくれることを期待しているからである。勉強しないで、遊んでいては生産力は身につかない。君が働かず学生でいられる特権の裏側には個人的、社会的義務が伴っているのだ。法学部に入ったからには法律の勉強に励むという義務があるのは当然の事だろう。
法学部学生の入学定員を定めた大学の設置基準自体が法学部卒業生の需給を考えて定員を定めているのだろうから、君が勉強を怠けると法律素養を身につけた人材の供給が貧弱になって国家的にも困った事かもしれない。
大学の経営だって少子化の昨今、優秀な卒業生を出さないと評価が下がり次年度の学生募集に影響して大変に違いない。君の大学の評価の低下は大学の経営に支障を生ずるだけでなく、卒業生たる君の評価の低下につながる。自分の大学のブランド力の低下は直接君自身のブランド力にも跳ね返る。