3 法律学の内容 (『法律学楽想』p34〜36)

通常法律学と言っているのは法解釈学である。民法の解釈を事とするのが民法学であり、刑法のそれは刑法学と呼ばれる。字句の解釈であるから古文の解釈と選ぶところのない退屈さと面白さを備えている。ただ、法律は一人の作者の創作品と異なり、政治闘争の歴史の上に思索を積み重ね、生活の利害の衝突の調整の苦労と思考を更に積んだうえに制定されているので、それらの積み重ねをどれだけ現状に生かすのか、否定するのか、更なる思考が求められ、学徒が日々苦闘しているところである。それは人間というもの、そのつくる社会、そして国家とその統制の手段たる法律についての歴史と現実という深さと拡がりをもつ興味深い学問であること、そして極めて現世的な学問であることを繰り返し説いておきたい。
嘗て法解釈学は科学たり得るかという議論が繰り返されていた。私の現在の理解によれば解釈者の価値判断、哲学的又は形而上的判断に従ってなされる検証不可能な科学を超える部分を「本籍」とし、制定法という文言にしばられた検証可能な科学といい得る部分を「現住所」とする複合的な、いわば哲学と科学の学際的学問であって、それだけに困難でもあり興味深い学問であると考えている。